AV業界裏話vol.44 AV新法で守られるのは一体誰だ?AVを知らない人が作った謎の規制
皆さま、おはこんばんちはー♡
2022年6月、脅威のスピードで施行されたAV新法。
成人年齢が18歳に引き下げられた時期に囁かれた、「高校生のAV解禁」というパワーワードがキッカケでした。
実際はアダルト業界の自主規制で20歳未満は成人年齢が引き下げられても、出演不可だったのですが…
いいとも、悪いとも言い難いAV新法について、元アダルト作品の撮影スタッフ側の意見を書いていきたいと思います。
アダルト業界は特殊な業界
アダルト業界になんとなくグレーなイメージを持っている方も多いと思います。
今はアダルト作品から生まれたスターも多数いるので、昔よりは馴染みやすくなったとはいえ、まだ世間の目は厳しいです。
まず、国庫はもちろん銀行からの融資を受けるのも難しい。
公序良俗に反する業種とされ、事業を大きくしようとしても、正しい道で融資を募るのは至難の業です。
そのため、グレーな金融会社から借り入れたり、フロント企業として別事業を立ち上げたり、融資を受けてから別部署を作ってアダルト業務をしている会社がほとんどです。
正しく真っ当にエロを作ろうとしても、なかなか資金作りがうまくいかず、グレーな社会と繋がってしまう。
当然と言えば、当然なのかもしれません。
このように真面目に作品を作っているのに、社会から断絶されてしまうことが原因で、独自の村文化が形成されています。
あっちも差別するなら、こっちもこっちで好きにやってやる!っていう風習があるんですね。だからなのか、変な文化が残っています。
例えば、残業代はないのが当たり前。昭和ストロングスタイルのパワハラや、嫌ならやめたらいいけど迷惑料払ってね、というような今の時代にはにわかに信じられない謎の決まりがあります。
このような悪習が改正されるならAV新法を作る意味があると思います。ですがAV新法は現場の声を全く聞かずに制定されたので、本来直さねばいけない部分は素通りされています。
ちなみにスタッフは全く大事にしませんが、女優さんはありえないくらい大事にします。
現場のお姫様です。
AV新法が起こしたスケジュールの変化
AV新法の問題点はたくさんありますが、私は契約・撮影・発売・ギャラの支払いなどのスケジュールがガラリと変わった点がすごく混乱をもたらしていると思います。
まずはAV新法施行前のスケジュールを説明します。
メーカー専属女優さんの場合は、打ち合わせをしてから最短で10日ほどで撮影が可能で、撮影後すぐに給与の支払いがありました。
そのため、女優さんにとっても制作会社にとっても、スピーディーな入金サイクル。
メーカー専属女優さんはスタジオ、セットなどにかけられる予算が大きいため、以前は幅のある撮影ができました。
企画単体女優、企画女優と呼ばれる方々の出演する作品は、先に作品のイメージがあり、それにあった女優さんをキャスティングします。
プロダクション経由で人選をしますが、メーカー側が女優・男優を指定することもあります。
もし企画を聞いてやりたくないと思ったとしても、仕事を受けなければOK。
女優さんはたくさんいるので、他の方に声がかかり、オファーを受けてくれた女優さんで撮影をします。
企画女優さんの中には、もともとプロダクションに所属していたけど、独立して個人でお仕事を受けているフリー女優さんがいます。仕事したものがそのまま自身のギャラになるので、近年はフリーの女優さんになる方も多いです。
フリーの女優さんの場合は、自身が監督やメーカーに営業をして仕事を貰います。
ただフリーですから当然、トラブルがあっても間に入ってくれる人がいません。仕事をこなして人脈ができてからフリーになるのなら良いのですが、未経験でAV女優になるのは難しいでしょう。
誰にでもある体調不良や、身内の不幸などやむを得ない事情って誰にでも起こりますよね。
特殊なお仕事のため、思いがけず撮影ができない状態になる場合もあります。
AV新法施行前は、メーカー専属女優さんの場合は、スケジュールを変更して撮影を行っていました。
フレキシブルに対応することが可能だったからです。
ちなみに今までの撮影延期理由として一番多く聞いたのが整形のダウンタイム。
撮影に間に合うように綺麗にしようとしたら、間に合わなかった。が誰も傷つけない理由として人気があります。
一般の人がちょっと熱があると体調不良のふりをするのと同じです。
当日行きたくないなどの我儘な理由でドタキャンした場合は、メーカーがスタジオ代など、制作会社に発注する分の費用を負担。
企画女優さんが撮影に参加できない場合は、代役を立てることができました。
プロダクションが、そこに所属している女優さんを紹介してくれるので、すぐに違う子が見つかります。
女優さんに聞くと、代役はお給料がいいんだとおっしゃっていたので、プロダクションによっては当日手当のようなものが出るのかもしれません。
男優さんも撮影ができない場合は、代役を立てていました。
女優さんの都合で現場が回っていくので、時間が押してしまうと他の現場の撮影にも影響が出てしまいます。時間的にどうしても対応できないことがあるため、急いで次を探さなければいけません。
男優さんが違う男優さんを紹介してくれることもありました。
またフリー女優さんはやむを得ず休む際、知り合いのフリー女優さんに依頼し、自分で代役を立てていました。
体調が悪い場合などは、代役を見つける作業が難しいこともあるでしょう。ですが、絶対に現場に行くか代役を立てられないと、次回以降仕事をもらうのが難しくなります。
フリー女優さんは、体調・予定管理も自身で完璧にこなさないといけません。
AV新法の問題点は、この代役が立てられないということも大きなポイントです。なぜこんな状況に陥ってしまったのか、詳しく説明します。
現在は、撮影の1ヶ月前には契約を締結しなくてはなりません。
撮影からリリースまでの基本的な流れは変わらないのですが、男優さんも女優さんと同じように対応する必要があります。
その際に、台本、スタジオ、出演スタッフ、撮影時間などを全て提示し承諾を得る必要があり、問題がある場合は修正し、全員の承諾を得ます。同意できない場合は、違う人に依頼することになります。
この「1ヶ月前に全ての人の承諾を得る」というのを守らなければ撮影できないので、体調不良などで休んだ人の代役を急きょ立てるのが不可能になってしまいました。
台本通りにしか撮影できないと、現場では困ったことがあっても解決することができなくなってしまいます。
例えば当日に性病検査の結果を公表するのですが、撮影内容の変更をしないといけない性病にかかってしまっていることがあります。今までは撮影内容の変更をすれば済んでいたのに、スケジュール自体の変更を行わなければいけなくなってしまったので、大損害。
女優さんも男優さんも、性病検査は前日にするのが基本だから、いくら事前にスケジュールを立てたとしても不可抗力というものがあります。もちろん安全のために必要ですが、問題が起きた時に臨機応変に撮影内容の変更ができないのは困りますね。
支払いが遅くなったギャラ問題
撮影が問題なく行われたら、今まではすぐに支払われていたギャラ。
AV新法施行後はリリースするまで支払われません。
撮影後、4ヶ月間は公表が禁止のため、リリースまでの道のりは長いです。
作品が仕上がったら出演者が内容を確認し、問題があれば修正を依頼したり、作品のリリース自体を拒否することができます。
契約して1ヶ月後に撮影し、編集や出演者チェックで1ヶ月、その4ヶ月後にリリースですから、ギャラを手にするのは早くても半年かかるというわけですね。
しかも1人でも拒否する人がいたらリリースできないので、出演者全員がギャラをもらえないことだってあるのです。
せっかくお金のために頑張っても、同じ意見ではない人が混ざっていたら、周りも被害を被ってしまう。
これは納得できない人も多いのではないでしょうか。
AV新法を作る時に、複数人が出演している作品が多いことを偉い人は考慮しなかったのが残念です。1人しか出ていない作品はオナニー、盗撮系しかないのに…
AV新法にはさらに別の問題点も。
AVがリリースされてから1年間は、出演者の一声ですぐに配信やセルの停止ができることになりました。
その際に出演者に金銭を請求してはならないとなっています。
本当に合意のない状態で撮影がされたなら、救済措置としてとても有効です。
ですが私が関わった撮影では、合意がないような撮影は一度もありませんでした。
リリース4ヶ月後にギャラをもらってすぐに公開停止してほしいと言われたら、従うより他はありません。もしこの制度を悪用する人がいたら、何のリスクもなく、ギャラだけ受け取る人が出てくるのではないでしょうか。撮影地雷系と言われる悪女たちに荒らされないか心配です。
契約や撮影内容、スケジュールの確認について、AV新法は男優さん、エキストラの方にも適応されるので、全員平等です。
この点は評価すべきだと思います。
AV撮影現場の意見
AV新法は主に女優を守るために作られたとされていますが、困っている人が多く、誰のための法律なのかわからない説があります。
出演者サイドは以下のようなリスクがあります。
●体調不良でも、休むことが許されない。
●キャリアがないとすぐに差し止めるのではないかと思われ、信用が得られず仕事がもらえない。
●出演者が複数いるため、ひとりでもリリース拒否されたらギャラをもらえない
●リリースされるまでの期間が長く、なかなかギャラがもらえない。
メーカーもプロダクションもリスクがあるため、新人の女優さん、男優さんを選ぶことが減りました。配信停止を何度も言われたら、もうお手上げ。
過去に実績のある人のみを採用していきますよね。
AV新法違反時の罰金は誰も払いたくないし、あまりに高額で払えない。撮影費用が回収できないだけでも大赤字なのに…
スタッフサイドは以下のように変わってしまうリスクがあります。
●撮影地雷系の演者につかまって損害賠償をされても困るので、仲の良い信用できる人しか仕事を依頼しない。
●リリースできなかったら困るから、できるだけ経費削減(スタジオ代ケチって撮影許可を得てない場所でダマ撮影が増加)
●演者さんがお姫様から神様に変化してしまい、いうことをもっと聞く下僕にならないといけない。
●リリースできなかった、配信停止になった際に、責任のなすりつけあいにより給料が天引きされ収入減。
●全体的に会社のムードが悪くなり、パワハラが悪化。
このように、ますます閉鎖的な空間になっていき、独自の村文化が発達していき…
良いことなさそうです。
法の抜け穴を狙って、さらに劣悪な環境に身を置くAV女優
AV新法の適用外と言われていますが、あくまでもグレーなのが同人AV。
この自主制作界隈に人が流れています。
(知的財産振興協会(IPPA)に加盟しているAVメーカーが作っているのは適正AVと呼ばれています)
自身が個人販売したり海外経由で配信する場合は、AV新法適用外(と言われている)ので、お金がすぐに欲しい人が同人AVに手を出したんですね。
すると問題はさらに見えにくくなり、トラブルが起きても対処するのが困難になります。
そして今、実際にかなりのトラブルが起きているのです。
守ろうとしている女優さんがAV新法のせいで危険な目に遭っているのですから、これでは本末転倒です。
一概に白黒つけられる問題ではない
アダルト業界に限らず、いい側面と悪い側面があります。
女優さん、男優さんの中には、AV出演に対してプライドを持っていて、誇るべき仕事と思い取り組んでいる方がいます。その人たちの中ではAV業界はホワイトでしょう。
黒歴史として、隠したいと思って出演している方からしたらブラックです。
このように人によって、アダルト業界は全然違うものに見えているでしょう。
全く違う方向を向いている人が集まっているので、一つの答えを出すのは難しいかもしれません。
私は世間的にしっかりと職業として認めて、お金を貸さない、家を貸さないなどの職業差別をしないことが大事だと思います。
フェミニストの人にも色々な考えがあって、売春が合法になったと糾弾する方々、性産業を撤廃しろとぶちギレている方をよく目にします。
一番大切なのは今その場にいる人の意見を丁寧に聞くことではないでしょうか。女性を大切にすることはもちろん最重要。
ですが、当事者ではない人を中心に話を進めたら、一番守りたい人の意見は置き去りになってしまいます。
そして、女優さん、男優さんの他にも現場では数多くのスタッフが働いていることを置き去りにしないで欲しいです。
法整備ももちろん大切なことです。
ですが、この法律は誰も守れないと声をあげている方がたくさんいます。
大手の会社は体力があるため、急な方針転換にも対応することができるでしょう。
だけど小さい会社が潰れてしまって、大手しかなくなってしまったら面白い尖った作品も作れなくなってしまいます。
AV新法施行後、少数派に届けるためのマニアック作品は利益度外視で制作しています。
日本が世界に誇るエロ産業。
今日本が世界で戦える武器はエロなんだ。
エロが武器なことは恥ずかしいことではない。それをしょうもないとか言っている人が一番しょうもないんだ。
見方を変えて、誰もが安心で、安全に楽しめるエロのための法整備が進むといいな。
(参照:政府広報オンライン:AV出演被害防止・救済法が施行 AV出演を契約しても無条件でその出演契約をなかったことにできます!
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202207/1.html)
PR