「らんこ先生、さようならー!」
「はーい。気をつけて帰ってねー!」

晴れ渡る秋晴れの水曜日。
今日も『ミュージック&アート・アカデミー』は多くの生徒で賑わっている。

私、永原蘭子が担当する水彩画教室も、6歳から82歳までの幅広い生徒が、ワイワイと今日仕上げた作品を嬉しそうに鞄に入れ、帰宅準備をしている。

「蘭子さん、お疲れ様です」

仕事着のエプロンを外し、生徒の絵画スタンドを片づけていると爽やかな声が後ろから聞こえた。

「山井君!お疲れ様」

振り返ると、上の階で毎週デジタルアート教室の講師をしている山井君が、いつもの穏やかな笑顔で立っていた。
華奢なフチなし眼鏡から覗く二重の澄んだ茶色の瞳は、いつだって彼の純粋で優しい性格を表すかのように、キラキラと輝いている。
29歳という若さで「デジタルアート界の巨匠」と呼ばれている彼は、世界的に有名なデジタルアーティストで、東京やニューヨークで個展をすることは勿論、大企業のデジタル広告なども多く手掛けている。
それでいて、一切気取ったところがなく、「もっと一般的にデジタルアートが広がって欲しい」と、週に一回ここの教室でたくさんの生徒と触れあいながら楽しそうにレッスンを行っている。

「実は、蘭子さんにちょっと提案があって、レッスン終わりに寄ったんです」
「提案?」

おそらく地毛なのであろう、目の色と同じ茶色のサラサラの髪をフワリとかきあげながら、山井君は1枚の紙を手渡してきた。

「わぁ、綺麗な絵…!これ、水彩画?」
「はい。実はこれ、僕が趣味で描いた水彩画で、それをパソコンに取り込んで加工したものなんです」
「へー!最初からパソコンで描いた訳じゃないんだ」
「はい。僕はデジタルを専門にしてますけど、絵の具や色鉛筆の『リアルさ』もすごく好きなんです。それで、蘭子さんの生徒さんの描いた水彩画をコピーさせて貰って、デジタルでどんな風にアレンジしたら面白いかっていうのを、うちの生徒さんにやらせてみたくて」
「すごい!面白そう!是非やってみたい!」

身を乗り出してそう言うと、山井君は嬉しそうに「決まりですね!」と満面の笑みを返してくれる。この人懐っこい笑顔に、いつもホッと心が癒される。

「あ、蘭子さん。髪の毛に絵の具が」

そう言って、山井君が一歩私に近づき、優しい手つきで私の髪の毛に触れる。

長身の山井君の胸が目の前に来て、思わずドキリとする。遠目で見ると気付かないけれど、改めて近くで見ると、半袖のワイシャツから覗く腕は太くたくましく、日本人とは思えないほど広い肩幅は、とてもガッチリとしていて男らしい。
胸の筋肉が盛り上がったシャツからは山井君の香りが混じった石鹸の匂いがし、チラリと覗く鎖骨は妙に色っぽい。

「うーん、濡らさないと取れないかも…」
「あっ!ごめん、全然大丈夫…!」

山井君の少し困ったような声で、我に返ってパッと山井君から体を離す。ワシャワシャと髪の毛をほぐしながら、今まで意識していなかった山井君の男らしい色気にほだされた頭を冷やす。

「…蘭子さん、あの」
「な、何?」
「その…今度、このコラボレッスンの打ち合わせかねて…食事でも行きませんか?」
「食事?うん、もちろん!レッスンの合間のランチでも!」
「あ…いや、そのランチっていうよりは…夜、美味しいお店とか行きたいかなって…」

珍しく伏し目がちにモゴモゴと話す山井君。眼鏡の奥の綺麗な目が、いつになく泳いでいる。

…もしかして、これ…
デートに誘われてる…?

「あ、うん、夜…行こう!美味しいお店知ってるよ」
「ホントですか!あっ…電話だ、すみません!じゃまた連絡します!」

パッと笑顔になった山井君は、着信音が鳴り響くスマホをポケットから取り出しながら慌ただしく教室を出ていった。

……。デートの誘い…って訳ではない…のかな?
打ち合わせもかねてって、言ってたもんね…。
山井君のシャツの上からでも分かる、たくましく広い背中をボーっと見送りながら、私も帰宅準備を勧めた。

その日の夜。

帰宅後、ゆっくりとソファでテイクアウトの中華料理を食べながら、山井君と行く食事のお店の候補をスマホで検索する。

「あ、このお店の個室、すごくプライベートな感じで良かったな」

先日女友達と行った、完全個室の二人席を思い出す。横並びで座る個室で、落ち着いて会話を楽しむことが出来たし、料理も美味しかった。

…でも、もし山井君が、打ち合わせはあくまでも口実で、デートが本当の目的で誘ってきてたとしたら…?


「蘭子さん、本当にお酒強いんですね」

私の選んだ個室のお店で、肩と肩が触れ合うほどの近さで隣に座る山井君が、2杯目のビールをグイっと飲み干す。

「山井君は、そんなに飲まないんだよね。ごめん、私にペース合わせなくていいよ」
「いや、僕も飲むのは好きなんです。ただ弱いから、すぐ酔っぱらっちゃうんですけど…今もちょっと酔ってます」
「全然そんな風には見えないけどなー」

私は日本酒のグラスを傾けながら、クスクスと笑う山井君の顔を覗き込む。

「あ、ホントだ。顔がちょっと赤い」

そう笑って山井君の額に手を当ててみる。もともと色白の肌がほんのり赤らんだ山井君の頬は、じんわりと熱い。

「…蘭子さん…」

ちょっと熱くなってるね、と言おうとしたその瞬間、山井君の大きな手が、頬に当てたままの私の手をそっと包み込む。

「あ…」

そのままスルリと私の指を撫でたかと思うと、山井君が私の人差し指を口元に持っていき、ゆっくりと指先を口に含んだ。

「…!山井く…」

ちゅぷ、ちゅぷ…とじっくり味わうかのように、山井君が私の指を舐め上げ、優しく吸う。
人差し指の次は中指…と、1本1本、まるで大切な宝石を扱うかのごとく、丁寧に、そして官能的に舌を動かす。

「蘭子さんの指…お酒の香りがして…もっと酔いそうだ」

指を舐められただけで、もうじんわりと熱を帯びてきた私の体は、山井君に色っぽく見つめられ、心臓が飛び出そうなほど高鳴っている。

「『やめて』って言うまで…やめませんよ?」

そう囁いた山井君が、私の指を自分の指に絡ませたまま、ゆっくりと眼鏡を外す。
いつものキラキラとした輝きではなく、欲望にかられた熱っぽい光が灯った茶色い瞳に、何も言えなくなる。

「ん…」

軽いキスは介さず、最初からヌルリと舌を入れられ、ねっとりとした山井君の舌の動きに翻弄される。

「あ…ふぁ…ぁ…んぅ…」

息継ぎをしようとすると、みだらな声が漏れてしまう。

プライベートな個室とはいえ、ここはお店だ。
ヤバい、と身をよじって唇を離そうとすると、両手で頬を包み込まれ、どこにも行かせない、と言わんばかりに顔を固定され、また激しく、しかし優しいキスを繰り返される。

横並びの席なので、椅子に座ったままでピッタリとお互いの体が密着する。

ちゅく…ぴちゃ…といういやらしい唾液の音を個室中に響かせながら、山井君がスルリと背中に手を回し、ブラウスの中に手を入れ、熱を持った温かい手で私のブラのホックをプチンと外す。

「山井く…ここ、お店…って、きゃっ!」

私が朦朧とした頭で、冷静さを取り戻すべく山井君の手を止めようとすると、急に腰をつかまれ、軽々と持ち上げられるがまま、山井君の膝の上に対面で座らされた。

「声…あんまり出しちゃダメですよ?」
「ちょっ…」

クラクラするほど整った美形の顔で、いたずら少年の様にニヤリと笑うと、山井君は私の腰を片方の腕でガッチリと固定し、もう片方の手をブラウスの中に忍ばせ、胸を直接ブラの下から揉みしだいた。

「…ぁ…んっ…」

指と指の間に胸の突起を挟まれ、刺激を与えられながら胸を弄ばれる。
首筋や耳に唇を這わせ、私の両手は山井君の首に回される。

イラスト:竹あき嬢

山井君の軽く開かれた脚の上に、またがるようにして座り、抱き合う姿は、まさに対面座位そのもので、そのシチュエーションに私も徐々に冷静さを失っていく。
くちゅ…ちゅる…と再び舌を絡めながら、二人で無我夢中で体をまさぐりあう。
太ももを撫でられ、完全にスカートがめくれ上がり、山井君の脚の上で下着が露わになった。
キスをしながらハァ、ハァ、と荒い息遣いを漏らす山井君の興奮が、またがった脚の間から伝わってくる。
パンパンに膨れ上がったズボンのチャック部分が硬く盛り上がり、私の中心にその熱が下着越しに伝わってくる。
その窮屈そうな部分を、楽にしてあげたい…という気持ちと、山井君のそれを見てみたい…という欲望に駆られ、そっとベルトに手をかけ、山井君のズボンのチャックをおろす。
見事に勃起した山井君の股間は、黒いボクサーパンツの上からでもその大きさ、硬さ、熱さがよく分かる。

「蘭子さん…」

山井君は余裕なさげに私の名を口にすると、私の腰を強く掴み、グッとさらに体を自分の方へ引き寄せた。
山井君の股間が私の割れ目に下着の上からピッタリと密着し、薄い衣の上からでも感じられるお互いの感触に、二人で息を漏らす。

「…動いて…?」

山井君が、かすれた声で私の耳に唇を寄せ、囁く。
言われるがままに、山井君の両肩に手を置き、私はゆっくりと、お互いの中心部分が擦り合わされるように腰を動かす。

「んっ…ぅ…蘭子…さ…」

ただただ、自分が気持ち良いところを山井君のそれに当て、腰を前後にグラインドさせているだけなのに、山井君も同じように気持ち良いのか、快感に眉間にシワを寄せ、私の鎖骨部分に顔を埋める。

「はぁ…ん…すごい…山井君の…どんどん硬くなってる…」
「蘭子さん…動き、ヤバい…超気持ちい…」

山井君の首にまきつくように腕を絡め、さらに上半身を密着させ、腰の動きを早めていく。

「はぁっ…あぁんっ」

お互い下着の上から擦り合わせているだけなのに、私のパンツはもうグショグショに濡れ、腰を動かすたびにグチュ…グチュ…と卑猥な水音がする。

キスをし、舌を絡めながら、お互い無我夢中に腰を振る。
我慢できず声が出そうになるたびに、唇でそれを塞ぎ、大きくいやらしくハァっと息を吐く。

「蘭子さ…俺、もう、イキそ…」

普段は「僕」と言っているのに、余裕をなくした山井君が苦しそうな声と息遣いで、私の胸を両手で弄りながら呟く。

「あたし…もっ…あっ…あっ…」

乳首をキュッと摘まれ、快感でのけぞりながら、山井君の頭を抱きかかえる。

「あぁっ…!」

最後の瞬間まで腰を強く振り続け、頂点で頭が真っ白になる。それと同時に、山井君も全てを解放し、私の中心部に強く股間を打ち付けるように当て、果てた。


「はぁ…はぁ…」

ふと気付くと、抱き枕を抱きかかえ、股に挟み、呆然とする自分の姿が、リビングの姿見に映っている。

「ヤバい…こんな妄想しちゃったら、山井君と絶対個室なんか行けない…」

またもやうっかり同僚をオカズにしてしまった罪悪感と共に、私は色気の全くない居酒屋を、改めてスマホで検索し直すのであった—―…

つづく♡

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ヘモグロビン子

歩く妄想癖"と言われてウン十年。 すべてのエロスは妄想に通じ、すべての妄想はエロスに通ず。 ヘモグロビン子の妄想ワールドに皆さまをお連れします。 皆でSAY!NO MO-SO NO LIFE!

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