昨今、性をオープンに楽しむ風潮が浸透してきている。とはいえ、世の中で語られるあらゆるエロにまつわるテーマは、大抵が“ノンケ(異性愛者)”に向けられた話でしかない。レズビアンである私はいつも思う。女同士の気持ちいいセックス、コンドームの付け方、おすすめのAVなど、とにかく情報源がない……!と。

なので私はJude as hellによる『LESBIAN SEX 101 Lovemaking Positions』という女同士の体位101選が写真付きで紹介された本を海外から取り寄せた。本を開くと「Favorite Handbag(お気に入りのハンドバッグ)」「Welcome Back(おかえりなさいませ)」などと名付けられた体位が説明され「え、本当にみんなやってるの?」「これって気持ちいいの?」と疑心暗鬼になった。

Lesbian Sex: 101 Lovemaking Positions (Hardcover)

LGBTQ+という言葉を聞くと「人権」「社会問題」「ジェンダー」といった単語を思い出すかもしれないが、それだけではない。エロが好きなノンケがいるように、エロが好きなLGBTQ+当事者もいる。スマホを開けば悲しいニュースばかりで、たまにはエロの話がほしくなるのだ。

ということで、連載「二丁目の性態図鑑」では、LGBTQ+コミュニティにいる人たちにインタビューし、それぞれの性事情をポップにカジュアルに聞いていく。新宿二丁目で又聞きするような会話を、manmamという公式の場で話すことで、コミュニティに開かれた会話となってほしい。記念なる一回目は、筆者の友人でありゲイポルノ俳優であるYoshi Kawasakiをお迎えする。ポルノ俳優という職業や、SMプレイの楽しみ方などについて話を聞いた。

©Yoshi Kawasaki, RAF AND WAY

ゲイポルノ俳優Yoshi Kawasakiへインタビュー

――活動内容について教えて。

「2013年にロンドンでゲイポルノ俳優デビューしました。現在はアメリカのウェブサイトに動画を載せていて、プレイ内容は、緊縛、フィスト、尿道、黄金など、主にフェチ系が多いかな。けど、スカトロだけは匂いがどうしてもダメで、まだできていません……。」

――アメリカと日本のアダルトサイトには違いがある?

「自分のレーベルサイトはアメリカのプロバイダーだから、アメリカの法に基づいてやらなきゃいけない。日本みたいにモザイクをかける必要はないけど、レイプ系の内容はNG。できることが違うのが特徴。」

――もともと性には興味があったの?

「フェチに関しては偏った知識しかなかったけど、田亀源五郎先生の描いた漫画を読んで、歯を抜かれたり、手足切られたり、内臓飛び出たりしながらエッチしている描写を見て、僕の性癖の根幹はそこにあると感じた。

当時、ロンドンでGrindrというマッチングアプリで出会った人がフェチに精通していて、ハーネスをつけてみてと言われたの。あの時の僕は今より華奢で恥ずかしかったんだけど、つけてみたらベタ褒めされて!当時21歳の若造がそんなふうに言われたら調子に乗っちゃって(笑)そこからフェチの世界にどハマり。」

――ロンドンはフェティッシュ文化が根付いているよね。

「その人の家にもケツ掘りブランコとかレザーやラバーの衣装があった。ロンドンはパンクシーンが根付いているから、ゲイコミュニティだけだなく、レザーコミュニティやフェティッシュコミュニティもある。そこで知り合った人にセックスクラブに連れて行ってもらったり、Reconというマッチングアプリのモデルに起用してもらったり、色々なことを経験させてもらえた。」

――SMの世界入って印象は変わった?

「田亀源五郎先生の漫画で描かれたSMの世界しか知らなかったから、最初は怖かった。殺されるんじゃないかって(笑)けど実際はそんなことはなくて、SMには精神的な繋がりが大切だと感じた。SがMの話を聞かないで怪我させてしまったという話もあるから、やっぱりコミュニケーションが一番必要。」

――SMの世界ではセーフティーワードがあると聞いたことがあるけど。

「SMプレイを中断するためのセーフティーワードを決める人もいるよね。けど、僕はセックス中に話すタイプじゃないから、それをやっちゃうと入り込めなくなっちゃう。だから僕はシンプルに「ストップ」と言うかな。」

©Yoshi Kawasaki, KII PIX

――日本は「やめて」が反対の意味を持つ場合もあるけど、英語だとNOはNOなの?

「NOはNOだね。海外の俳優さんは日本の「NO」が「YES」になり得ることに混乱するって言ってた。アメリカの会社では「NO」と言うとレイプとして認識されるから、相当なことがない限りはNOと言わないし、必ず撮影後は動画を回して、出演者全員が同意の上でプレイした証拠を残すよう徹底してる。

ただ、その背徳感が良かったりもするから、個人的にやるなら別のコミュニケーションが必要なのかなと思う。それこそタチ側(S側)の力量で、相手が本気か本気でないかを見極める必要があるのかなって。

だから僕は相手が信頼している人じゃないと目隠しは危ないなと思う。やっぱり目で訴えるコミュニケーションの仕方もあるから、体だけで何を伝えたいかを見極めるのは難しい。」

――好きなプレイやフェチはある?

「SM系。特におしっこのプレイが好きで、英語では「ウォータースポーツ」という言い方をする。いわゆる汗とか、水をともなうプレイ全般のこと。AVはサブスクがあるから「Piss(おしっこ)」という単語を使うとクレジットカード会社に断られてしまう関係で、直接的な言葉は使えないみたい。」

――ウォータースポーツのどういったところに魅力を感じる?

「みんな楽しみ方は違うけど、僕は背徳感が好き。人間が便器になって、本来口にするようなものではないものを口にすることで、貶められているように感じる。この背徳感に興奮する。」

Yoshi Kawasaki, MAGIC

――ポルノ俳優として活動していく中で、印象的な現場は?

「1日で3本の撮影をした時は嫌になりそうだった(笑)しかもプレイ内容がフィストファックで。フィストファックは肛門に手や拳を入れるプレイのことなんだけど、男性器によるアナルセックスよりも断然気持ちいい分、体力も必要で。その時はフィストに加えて、他のプレイもあったから疲労困憊。

あとは、スペインの山奥で撮影した時は、縄で吊るされた状態でフィストされるというシーンがあったんだけど、寒すぎてケツが縮こまっちゃって。手が入る状態ではなかったんだけど、我慢してたら血だらけになっちゃった。さすがにNOと言えばよかった……。」

――挿入のしやすさは温度と関係するんだね。

「お尻って脳と繋がっていて、自分がフィストできる状態とそうでない時の緊張感が全く違うんだよね。すでに入った状態だとフィストできると脳が認識してるから、お尻も緩む。だけど、フィスト納めしていない状態だと少し気が張ってしまう。

いくら大きなおもちゃが入る人でも、人の手になると縮こまってしまうのは、精神的な面を自分でコントロールできないからなんだよね。フィストは誰でもできる行為だけど、精神的な面でとても影響されやすい。」

――現場の雰囲気も影響するの?

「もちろん。威圧的な監督やコミュニケーションを怠る相手との撮影ではうまくいかないこともある。過去にとある俳優さんと一悶着あって、たまたまその人と撮影で共演することになって。ドタキャンも良くないしオファーを受けることにしたんだけど、現場も慌ただしい中での撮影で、なんか嫌な感じがしてたの。

そしたら後から気づいたんだけど、相手の爪が長くて傷穴から菌が入ってしまって……。出血が続いて結局6ヶ月セックスできなかった。体が第一の職業だからこそ、勇気はいるけど自分を守ることも大切だと感じたね。未来のポルノ俳優にも伝えたい!」

――安心してセックスするために心がけていることは?

「PrEPは絶対に飲んだ方がいい!あとは、自分の限界がどこまでなのかを知っておくことも大切。これまでに試したことないプレイをするのは良いことだけど、試してみて自分は好きでもないのに、相手のためにやってあげようと思うのは危険。だからこそ、コミュニケーションをとって相手のことを見極めなければいけない。

SMを楽しんでいる人たちは、危険が伴うからこそ実は慎重で。逆に普段何も考えずにセックスできる人たちこそ、コミュニケーションを取ったほうが楽しいと思う!勇気を持って何が気持ちいいのか伝えるだけでも、感度は上がるからね。」

インタビューを終えて

筆者自身もSM活動を通してM男と交流する機会がある。
SMは、精神的な繋がりがなければ相手を虐めるだけの暴力になり得る境界線で、SとMが言葉ではない部分でコミュニケーションを取っていることを改めて感じることができた。
SMプレイだけでなく、カップル間のセックスも同様、安心してプレイできる関係性や姿勢を育むことが大切なのではないだろうか。

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Honoka Yamasaki

昼間はライター・編集者として性について発信、夜は新宿二丁目で踊るダンサーとして活動。 あらゆる性や嗜好について取材している。 TimeOut連載「SEX: 私の場合」

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