ビアン事変「お前の席はねぇんだよ」ビアンを”性のエンタメ”と勘違いする”俺も混ぜて男”の話
女性しか愛せないの——このひと言は、しつこく言い寄ってくるノンケ男性を穏便に撤退させる、私たちビアンの最強の切り札だ。本来なら「あ、これは男の俺がどう頑張っても1ミリも脈がないやつだ」と察して、大人らしく引き下がる。それが正しいコミュニケーションというものだろう。
ところが世の中には、この言葉を聞いた瞬間になぜか目をギラつかせ、信じられないテンションで身を乗り出してくる謎の生き物が一定数いる。
「えっ、マジで!? じゃあさ、俺もそこ混ぜてよ! 3Pしようよ!」
「女同士の絡み間近で見たいわ〜。俺、真ん中で寝てるだけでいいから!」
……待て。落ち着いて語を聞いてくれ。私は今、男のあなたを完全に排除した世界の話をしているのだ。そこにお前の居場所は少しも存在しない。お前の席はねぇんだよ。
今回は30代リバの現役ビアンライター・みかが、このなぜかビアンに混ざりたがるノンケ男の脳内で何が起きているのか、その歪んだハーレム願望の正体を、怒りと呆れを7:3で配合しながらぶっちゃけようと思う。
1.元凶は、男性向けAVの有害な刷り込み
彼らがなぜ、はっきり断られたのに笑顔で混ぜてと言えてしまうのか。犯人はほぼ確定している。男性向けに作られたレズビアンAV(いわゆる”レズもの”)による、深刻な脳内汚染だ。
多くの男性向けAVにおける女性同士のプレイは、悲しいことに「最終的に男優が登場して3Pになる」ための前座として組み立てられている。本物のビアンのセックスとは似ても似つかない、男性の視覚を満たすためだけのファンタジーだ。言うなれば、メインディッシュを引き立てるための”お通し”。ところが長年それを浴び続けたAV脳の男性は、あろうことかお通しを人生のメニュー表そのものだと信じ込んでしまう。
彼らの脳内では、こんな方程式が完成している。
【俺も混ぜて男の脳内方程式】
レズビアン = 男を興奮させるためのエロいオプション = 最終的には男(俺)も美味しく混ざれるご褒美イベント
だが本物のビアンの性は、男性の存在を1ミリも必要としない、完全に独立した回路で動いている。私たちが肌を重ねるのは、そこに純粋な愛と快感があるからだ。それを自分を楽しませるためのアトラクションの延長で捉えているからこそ、悪気なく、混ぜてなんて寝言が出てくる。遊園地の乗り物に並ぶ感覚で、他人の人生の列に割り込もうとしているのである。
2.傷つきたくないプライドが生む謎の超理論
この「混ぜて男」の心理をもう一段掘ると、男性特有の傷つきたくないプライドと都合のいい解釈が顔を出す。
拒絶された理由を自分の魅力不足と認めたくない人にとって、女性が好きだからという理由は、実は好都合だ。なんだ、俺個人のスペックの問題じゃなくて性嗜好の問題かと、謎の安心を得られるから。
ここまでは、まあいい。問題はその後のアップデートだ。プライドを守りたいあまり、彼らはこんな超理論を組み上げ始める。
「男としての俺は無理でも、”女同士の尊い空間を盛り上げる飛び入りゲスト”としてなら、参加OKなんじゃない?」
どこをどう裏返したらその結論に着地するのか。一般常識の成層圏を軽々と突破していくポジティブ思考である。拒絶という現実を都合よく編集し、俺が混ざれば彼女たちの世界はもっと楽しくなるという、根拠ゼロの全能感まで手に入れてしまう。
3.俺が女に戻してやるというグロテスクな征服欲
そして最も有害で、最もヘドが出るのが、男に興味がない女2人を、俺のテクニックで同時にメロメロにして本物の女に戻してやるという、カリスマAV男優気取りの征服欲だ。
彼らの目に、ビアンはまだ本物の男を知らないだけと映っている。俺が男の快感を教えれば一発でノンケに戻るはずという、狂った救世主妄想。女性同士のセックスをママゴトと見下し、シンボル一本ですべてを凌駕できると信じて疑わない、その傲慢さ。
現実を教えてやろう。私たちがベッドで繰り広げているのは、深夜3時に年上彼女の限界突破した性欲に叩き起こされて寝不足になり、ペニバンの角度をミリ単位で真顔で検証しては腰をバキバキに破壊される、泥臭くて命がけのサバイバルだ。ロマンチックな救世主が颯爽と登場する余白など、物理的にも精神的にも、分子レベルで残っていない。
4. 混ぜて男を秒でフリーズさせる特効薬
結局のところ、彼らが嬉々として混ざりたがるのは、ビアンを一人の人間のリアルな人生として尊重しておらず、エロくて都合のいいファンタジー空間として消費しているからに尽きる。
だからもし、あなたがカミングアウトした途端にこの「混ぜて男」に遭遇してしまったら——真面目に怒って貴重なエネルギーを1カロリーも使う必要はない。営業スマイルを100点満点で貼りつけて、同じレベルの不条理を、そっと投げ返してあげよう。
「え〜3Pですかぁ?いいですよ。じゃあ条件として、あなたがゲイカップルの間に全裸で飛び込んで『俺も真ん中に混ぜて!』って心から楽しめるくらいオープンな人なら、こっちも前向きに検討しますね(ニッコリ)」
大抵の混ぜて男は、自分が対象外の性から性的に消費される側に回る図を想像した瞬間、フリーズしたスマホみたいにピキッと固まり、静かに退散していく。他人を消費するのは大得意でも、自分が消費される想像には1秒も耐えられない。それが彼らの正体だ。
夜の街から若者が減り、出会いの場がアプリに変わっても、この手の「脳内バグ」の発生率だけはいつの時代も横ばいである。自分のセクシュアリティを、誰かの暇つぶしのエンタメにさせないこと。その静かな強さを持つことこそ、この時代を生き抜くための最強のフェムケアなのかもしれない。




