あやまんJAPANの妄想官能小説 あやまん監督編
この世に生を受け、そしてあやまん監督として夜な夜な酒を浴びるように飲み始めてから20年。
私は、知っている。
「今日という日を心地よく過ごせるか否か」の勝敗は、ベッドで体を起こした瞬間に決まるのだ。
小さく息を吐き、枕にズッシリと埋まった後頭部を、ゆっくりと持ち上げる。
…勝利だ。
頭痛が一切ない。
足元に転がった黒霧島の一升瓶を踏まないよう、大股でベッドからおりる。
ACTASのアウトレットで38万円出して購入したリビングのソファーに、あやまんJAPANレギュラーメンバーであり、親友でもあるサムギョプサル和田がグーグー寝ているのを横目に、キッチンへと向かう。
コーヒーマシンに、お気に入りのキリマンジャロのコーヒー豆をザラザラと入れる。
香ばしく、豊満な薫りがキッチンを包み込む。
ふと1年前に別れた元カレが「コーヒーはキリマンジャロに限る」と、キリマンジャロコーヒーの素晴らしさを延々と語っていた姿を思い出す。
しかし後日、そいつはキリマンジャロをオーストラリアにある都市の名前だと思い込んでたことも、忘れてはならない。
彼は「君にポエムを贈りたい」と、百人一首の死がテーマの句を読み始めたアホだったが、私はそんな彼の事を深く愛していた。
「監督ぅ~…?今何時ぃ?」
コポコポとコーヒーがドリップされる音を聞きながらボーっとしていると、ソファから かすれたサムギョプサル和田の声が聞こえてくる。
「和田ちゃん、おはよ。10時10分だよ」
「あったま痛ぁ…最悪の二日酔いパターンだわこれ…」
「私は全然大丈夫。ヘパリーゼ・プレミアム効いてるわ」
「え~~でもあれ、ひと瓶1000円もするじゃん…」
馬鹿め。1000円のヘパリーゼを笑う者は、4時間におよぶ二日酔いに泣くのだ。
…いや、二日酔いが6時間で終わるのは20代までだったな…
今は12時間ってところか。
二人分のコーヒーマグを両手に、またソファーに倒れ込んだ和田ちゃんの隣に座る。
ひんやりとした冬の朝の空気を頬で感じながら、コーヒーをひとすすりし、Instagramのアプリを開く。
プライベート用のアカウントに切り替え、ズラリと並んだストーリーズの丸いアイコンをタップすると、次々に友人達の近況が10秒ずつ、画面に映し出される。
『七五三、よくがんばりました!』
『北海道なう #結婚記念日旅行』
『朝からママ友とゴルフ!100切るぞ~』
10年前なら、絶対に目に入らないようにしていた彼女たちの日常生活の様子も、今や何の感情もなく見られるようになった。
むしろ、彼女たちのInstagram上での”家族と幸せアピール合戦”や”ママ友と何食ったか選手権”は、一種のエンターテイメントとして楽しめるまでに、私も成長した。
そして私は、彼女たちが日々家事に、育児に、マウンティングに奮闘している間、
私はというと、夜に精力的に働き、男と寝て、友人たちと笑い合い、そして仕事の無い日は、朝の10時に全自動コーヒーメーカーが作ってくれた美味しいコーヒーを飲み、二度寝するかどうか悩んでいるのだ。
「ねぇ和田ちゃん、立ちバックしたことある?」
ソファーにうつぶせになっていた和田ちゃんが、ムクリと顔を上げる。
「…覚えてる限りは、無いな…あんまり必要性を感じなくて…」
「逆に必要性のある体位って何よ」
「…いや…うん、確かに。で、なんでそんなこと聞くの?」
寝ていたはずの和田ちゃんが、気付けばちょこんとソファーに正座し、こちらを真剣な顔で見ている。
「昨日、ひっさびさにやったんだよ。立ちバック」
「昨日!?昨日あやまん、たまこのベビーシャワーで夕方からずっと私たちと一緒に居たじゃん」
そう。昨夜は、もう一人のあやまんJAPANレギュラーメンバーであり、私の2人目の親友であり戦友でもある、たまたまこの妊娠祝いとこれからの安産祈願を願う、ベビーシャワーのパーティーを開いていた。
妊娠8ヵ月のたまこは、ノンアルのレモン炭酸飲料を「これをレモンサワーだと思い込む」と、ペットボトル14本飲み干し、パンパンに膨らんだ腹をさらに膨張させ、陽気に帰って行ったのだが、実はそのパーティーの前に私はあることをやらかしていた。
「たまこのパーティーに行く前、ジムに行ったの。そこで、久しぶりに会った男がいてさ。」
「あ、前に話してた、ダンベルあげながら喘ぐ人?」
「違う。それじゃない。ゲイだと思ってたら違った48歳バツイチ証券会社の人」
「あー、そっちかー」
何故かガッカリした様子で和田ちゃんがコーヒーを一口飲む。
その男とは、一度だけジム終わりに飲みに行ったことがあり、居酒屋個室で手マンまではしたが、それだけで終わっていた。
「トレーニングの後、水飲んでたら鉢合わせたの。軽く挨拶して別れたんだけど、その後シャワールーム向かったら、私間違えて男性更衣室入っちゃってさ」
「絶対わざとじゃんそれ」
「違うの、本気で間違えたの。あんたも40代なったら分かる。突然間違えるんだよ」
「わかったわかった。それで?」
その後の想像は、何となく和田ちゃんもついているんだろう。二日酔いも忘れているのか、好奇心で溢れたキラキラした目で身を乗り出してくる。
そう。私はいつもなら4階にあるはずの女性更衣室と間違え、3階の男性更衣室に堂々と入って行ってしまった。幸か不幸か…いや、おそらく不幸にも、更衣室には誰もおらず、私は積み上げてあるタオルを取り、そのままシャワールームへとズカズカと進んでいった。
4列並んだ個室のシャワーブースの2列目のドアを開けようとしたところで、ガタッと隣のシャワーブースの扉があいた。
出てきたのは、ゲイだと思ってたら違った48歳バツイチ証券会社勤務、そして今この瞬間はフルチンの男だった。
気付けば私は「今から私もシャワー浴びますけど、もう一回どうですか?」
と聞いていた。
仕方がないことだと思う。
濡れた髪、濡れた腹筋、濡れたチンコ。
山に登りたかった訳じゃない、そこに山があったから登ったんです。
「それで、コンドーム片手に一緒にシャワーブース入ったのよ」
「コンドームの準備が良すぎるなぁ」
「んで、あっついシャワー流しながら、最高の立ちバックしてたんだけどさ。さぁクライマックス!!ってとこで、シャワーブースのお湯が突然止まったの!!」
これは実は、私の通う会員制ジムでたまにあることだった。
1つのシャワーブースを長く使いすぎると、お湯が自動的に止まってしまうのだ。
そういう時は、隣のシャワーブースに移動すれば、またシャワーを続けることが出来た。
バツイチ証券会社もそれを知っていたのか、割と冷静に「隣に移ろう」と提案してきた。
「でね、じゃさっさと隣に移動して続けよう!て言ったら、『待って!』て言うの」
「ほうほう」
「『待って!俺、急にチンコ冷やすと、萎えちゃうんだ』って」
「耐熱ガラスって、急激に冷やすと割れるらしいよ。その人のチンコ、耐熱ガラスだったんじゃない?」
「………。で、とにかく隣のシャワーブース行くにも、外気にさらしちゃ駄目だから、挿れたまんま移動することになったんだけどさ」
ここからが鬼門だった。
私の経験値では、チンコをマンコに挿れっぱなしで場所移動をするメソッドは、駅弁体勢ぐらいしか思い付かない。
しかし、「じゃぁ私を持ち上げて♡」と48歳バツイチに頼めるほどの厚かましさも持ち合わせていない。そして男も、狭い空間で私をケツから持ちあげる勇気は持ち合わせていなかったのだろう。
「結局、そのままチンコ入れたまま、カニ歩きで移動することになったの」
「カニ!!!!???」
「えっほ、えっほって。チンコがポロンて外れないように、歩幅とリズム合わせて」
「運動会の競技じゃん」
和田ちゃんの言う通り、急遽始まったカニ歩き競技。
ルールはチンコをマンコに挿入したまま、絶対に離れないようにすること。
脳内で「天国と地獄」がフルオーケストラで流れ始める。
えっほ、えっほと数メートル先のベッドまで、背中とお腹を密着させ、共に歩幅を合わせ、チンコを挿れたままカニ歩きをする43歳監督と`48歳バツイチ。
神様、私はかつてカニをいじめた事もないし、カニを食べに行った時は、いつだって残さず綺麗にしゃぶりつくしてた。私がカニに、何をしたって言うの。
「隣のシャワーブースまで、1mの距離も無いしさ、数秒で移動できると思ったんだけど」
そう。奴のチンコが耐熱ガラスでなければ。
カニの一歩を、あと10cmずつ大きくしていれば。
私たちは、盛大なるフィニッシュを迎えていたはずなのに。
「清掃員のオッサンが入ってきて、見られた」
「カニを!!!???」
「カニを。しかも男は私を壁にしてるから見られてないけど、私は多分、毛まで見られた」
「わーーー…だから昨日、『今夜は飲むぞ!!』て叫んでたんだね…」
「ヘパリーゼ、1000円のを買う意気込みが伝わりましたかな?」
—―こうして私は、無事にそのジムを出禁となり、耐熱ガラスチンコのバツイチ証券会社とも二度と会うことは無くなった。
毎月12,000円のジム会員費を払って手に入れたこの引き締まった太腿も、腰回りも、清掃員のオッサンに見られたが最後、きっとすぐ元に戻るだろう。
「あ、たまこかグループLINEにLINEきたよ」
コーヒーのおかわりを入れている和田ちゃんの声がキッチンから聞こえる。
「んー?なんだろ」
ベッドの上のスマホを手に取り、LINEのアイコンをタップする。
(たまたまこ)“今日の夜、カニ食べに行きたい!!”
キッチンで腹を抱えて笑い転げる和田ちゃんを一瞥してから、私は心を込めて、ゆっくりと返信を打ち込んだ。
(あやまん)”絶っっっっっっ対に、イヤ”
~END~
PR